電気工事の見積をAIで作る、任せられる範囲
電気工事の見積をAIで自動化するとき、どこまで任せられてどこから人が決めるかを、実際に作った経験から整理する。
この記事で分かること
電気工事の見積作成をAIに任せるとき、どこまでが自動化できてどこからが人の判断かを整理する。
福井県内の電気工事会社(従業員10名未満)から相談を受け、見積の叩き台を自動生成する仕組みを実際に作った。そのときに分かったことを書く。会社名は守秘のため出さない。
先に断っておくと、この記事に「何時間が何時間になった」という数字は書かない。理由は最後に書く。
見積が遅いのは、作る作業が遅いからではない
相談を受けた時点で、社長が挙げた困りごとはこうだった。
- 問い合わせメールへの返信が夜中の作業になっている
- 見積作成に1件あたり1〜2時間かかる
- 月末の請求書作成で土日が潰れる
※出典:当社が実施した社長へのヒアリング。計測した値ではなく、社長本人が挙げた体感である。
ここで見積の所要時間だけを見ると、書類を作る速度の問題に見える。実際に横で見ていると違った。
かかっている時間の大半は、書式に数字を流し込む作業ではなかった。過去の似た案件を思い出して探している時間と、単価を今の相場に合わせて考え直している時間だった。
つまり遅いのは手を動かす作業ではなく、思い出す作業と決める作業である。ここを分けないと、どれだけ入力を速くしても見積は速くならない。
AIが得意なのは「思い出す」ほうだった
過去の見積データを読ませると、AIは「この内容なら、過去のこの案件が近い」を出せる。これは人が記憶と勘でやっていた部分で、しかも社長にしかできなかった部分でもある。
実際に作ったのは次の3つになった。
1. 見積の叩き台の自動生成 — 過去の見積を学習させ、新規の問い合わせ内容から叩き台を出す
2. 問い合わせの一覧化 — LINE・メール・電話の問い合わせを1画面にまとめ、対応漏れが起きない形にする
3. 請求書の半自動化 — 見積が承認された後、請求書のデータが自動で作られる
順番に意味がある。1をいきなり作っても、問い合わせがバラバラの経路で来ていると入口で漏れる。2があって初めて1が効く。
任せてはいけないのは「決める」ほう
叩き台が数十秒で出るようになっても、最終的な金額は人が決める形にした。理由は3つある。
現場条件は過去データに入っていない。
同じ「コンセント増設」でも、天井裏に入れるか、既設の配線が生きているか、足場が要るかで手間がまったく変わる。この情報は見積書に残っていない。過去データだけで金額を出すと、条件の悪い現場で赤字になる。
単価は動く。
材料費も人工も、去年の見積の数字がそのまま今年使えるわけではない。AIは過去に引っ張られるので、放っておくと古い相場で出してくる。
出した金額は約束になる。
社内の資料が多少ずれていても直せばよいが、客先に出した見積は取り消せない。間違えたときの損失が大きい作業は、人が最後に見る形にしておく。
この3つは電気工事に限らない。「過去に答えがある作業」はAIに向き、「現場を見ないと決まらない作業」は人に残る。この線引きが、見積のAI化で最初に決めることになる。
足りない現場条件は、LINEで入れる
一つ前で「現場条件は過去データに入っていない」と書いた。ここが最後まで残る弱点になる。
当社はこれを公式LINEで埋める形にしている。LINEでの見積対応は、実際に受けている業務である。
1. 現場から写真を撮って送る
2. AIが見積に必要な項目を聞き取る(どこに配線を通すか、既設が生きているか、足場が要るか)
3. その条件を含んだ叩き台が上がる
4. 金額を人が確定し、見積書として出す
電気工事の見積が夜の作業になりやすいのは、事務所のパソコンに戻らないと作れないからである。現場で片手で送れる入口があるかどうかで、その日のうちに終わるかが変わる。
なお、AIに聞き取らせるのは項目であって、金額ではない。前の節のとおり、出す金額は人が決める。LINEを入口にしても、この線は動かさないほうがよい。
導入前に用意しておくもの
叩き台の質は、読ませる過去データの質で決まる。相談の段階でこれがあると早い。
- 過去の見積書(PDF・Excelどちらでもよい) — 数が多いほどよいが、直近1〜2年で足りる
- どの見積が受注に至ったか — 出しただけの見積と、通った見積を区別できると精度が上がる
- 単価表があるならその現物 — 頭の中にしかない場合は、ヒアリングで書き出すところから始める
- 見積で一番困っている場面 — 「時間がかかる」ではなく「どの工程で止まるか」
逆に、過去の見積が紙しか残っていない場合は、そこを電子化するところが最初の作業になる。ここを飛ばして「AIを入れれば」と進めると、学習させるものが無いまま止まる。
数字を書かない理由
この記事には削減時間も削減率も書いていない。
社内の資料には数字が残っている。ただしその数字は、クライアントに確認を取って測り直したものではなく、公開してよいという許諾も取っていない。測っていない数字と、許諾のない数字を外に出さないというのが当社の決まりなので、ここには書かない。
見積のAI化を検討するとき、他社が出している削減率も同じ目で見たほうがよい。何を測ったのか、いつ測ったのか、その会社の許可を取っているのかを聞いて、答えが返ってこない数字は判断材料に使わないほうがいい。着手前に効果を約束してくる相手にも、同じことを聞いておくとよい。
当社の場合
株式会社SHIKAKERUは福井市に本店を置いている。この電気工事の事例は、外部の人間として社長にヒアリングし、従業員の方の話を聞き、実際の作業を見てから作ったものである。業種の専門家として入ったわけではない。
福井県内であれば現場訪問は無料で、費用は対象業務を決めてから出している。見積のAI化が向かないと判断した場合は、そのように伝える。
公式LINEを入口にする形そのものは「公式LINE×AI導入支援」にまとめている。見積に限らず、問い合わせ・予約・日報など、現場から送って社内で受ける業務全般が同じ作りになる。
同じ建設まわりの業種全体については「建設業の最初のAI化——現場から離れられない会社」に書いた。見積作業そのものの詰まり方は「見積書が遅くなる理由と、AIで自動化できる範囲」、福井で何から始めるかは「福井の中小企業がAI導入で最初に考える3つ」が近い。
まとめ
電気工事の見積が遅い原因は、書類を作る速度ではなく、過去を思い出す作業と単価を決める作業にある。
AIに任せられるのは前者で、後者は人に残る。現場条件は過去データに入っておらず、単価は動き、出した見積は取り消せないからである。
過去データに無い現場条件は、公式LINEで現場から写真と項目を送る形で埋められる。当社はこの形で見積対応を受けている。事務所に戻らないと見積が作れない状態が、夜の作業を生んでいるからである。
始める前に用意するのは、過去の見積、受注できたかどうかの区別、単価表、そして「どの工程で止まるか」の4つになる。紙しか残っていない場合は、そこからになる。
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